Research



JEM-GLIMSミッション

国際宇宙ステーション (ISS : International Space Station) 日本実験モジュール (JEM : Japanese Experiment Module) 曝露部 (EF : Exposed Facility) において,雷放電に伴って成層圏・中間圏・下部熱圏で発生する,高高度放電発光現象スプライト・エルブス,ブルージェット)を観測するミッション JEM-GLIMS (Global Lightning and sprIte MeasurementS on JEM-EF) を実施しました。JEM-GLIMSの大きな特徴は,高度400 kmの軌道上から高高度放電発光現象を真上から観測することにあり,このため,地上観測からは困難であったスプライトの水平方向の空間的発生分布を詳細にとらえることができる点にあります。北海道大学の我々の研究室が中心となって開発を行ったJEM-GLIMSは,種子島宇宙センターからH-IIBロケット3号機によって2012年7月21日に打上げられ,2012年12月から定常運用を開始しました。定常運用に続く延長運用も行い,2015年8月に全ての観測を終了しました。

合計2年8ヶ月の観測期間中,JEM-GLIMSは合計8,357例の雷放電を検出し,そのうち699例が高高度放電発光現象でした。地上の雷位置検出ネットワーク (NLDN, WWLLNなど) のデータや,雷放電放射ELF帯電波観測データなどとの詳細な比較によって,少なくともそのうち42例がスプライトで,508例がエルブスと識別されました。右図はJEM-GLIMSのCMOSカメラ (LSI : Lightning and Sprite Imager) によって観測された雷放電発光の例です。LSIで計測された雷放電発光の典型的な空間スケールは約20 kmほどですが,その形状はとても複雑で,輪郭がシャープな雷発光 (一番左下の例) もあれば,ぼやっとしている雷発光 (一番右上の例) もあります。これは雷雲内における雷発光の発生位置,すなわち雷放電の電流の流れる高度の違いを反映しているのではないかと考えています。一番右下の例では,雷発光がさらに上空にある雲にマスクされているようにも見て取れます。

左図は,JEM-GLIMSが2012年11月から2015年8月までの期間に雷放電発光を検出したときのISSの位置分布です (ほぼ雷放電の発生位置と一致)。この図を見ると,雷放電は主に南・北アメリカ大陸,アフリカ大陸,東南アジア多島域で多発していることが分かります。このJEM-GLIMSによる雷放電発生分布は,これまでに行われた衛星観測 (OTD : Optical Transient Detector, TRMM/LIS : Lightning Imaging Sensor) の観測結果と極めて良い一致を示しています。また,地中海や日本周辺でも雷発光が検出されていますが,これらは夏季雷に加え冬季雷も多く含まれています。さらにこの結果から,雷放電の発生頻度,およびスプライトやエルブスの発生頻度を推定することが可能です。ISSは軌道傾斜角が51°であることから,JEM-GLIMSは特定の地方時 (LT) に固定した雷放電観測をするのではなく,全てのLTを掃引しながら観測を行います。このため,雷放電と高高度放電発光現象のLT依存性を世界で初めて推定することが可能になります!

右図は,JEM-GLIMSが2014年6月12日06:41:15UTに米国カンザス州上空で観測したスプライトの動画です。雷発光を虹色で,スプライト発光を赤色でそれぞれ擬似色で示しています。まず最初のフレーム画像 (frame-1) では雷放電発光のみが計測されましたが,34 ms後の第2フレーム画像 (frame-2) ではスプライト発光が検出されています。さらに続く第3フレーム画像 (frame-3),第4フレーム画像では,雷発光が消光したのに対しスプライトは発光が継続しています。また特に面白いのは,スプライトが雷発光の直上で発生しているのではなく,位置がずれたとことで発生していることです。右図の例では,雷発光強度が最も高い位置から,スプライト発光の中心点まで約10 kmの位置ズレが発生しています。これは,スプライトの発生メカニズムとして考えられている準静電場モデル (Quasi-Electrostatic Model) では説明がつかず,何か別の要因が位置連れを生んでいると考えています。この原因を特定し,発生メカニズムを明らかにすることがJEM-GLIMSミッションの最終目的でもあります。

私たちの研究室では,JEM-GLIMSのデータを用いて以下に示す世界最先端の研究課題に取り組んでいます。

  • スプライトの時空間変化と水平空間分布とそれを引き起こしたメカニズムの解明
  • 雷・スプライト・エルブスの全球的な発生頻度分布とLT依存性の解明
  • 雲内放電(IC)と雷雲地上間放電(CG)の判別方法の開発とIC/CG比 (Z値) の緯度分布,およびグローバルサーキットへの影響の解明

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    小型衛星「TARANIS」ミッション,国際宇宙ステーション「ASIM」ミッション

    小型衛星TARANIS (Tool for the Analysis of RAdiation from lightNIng and Sprites) は,高度700 kmの軌道上から高高度放電発光現象 (TLEs : Transient Luminous Events) と地球ガンマ線 (TGFs : Terrestial Gamma-ray Flashes) を直下視観測する衛星計画です。この衛星は,フランスの宇宙機関であるフランス国立宇宙研究センター (CNES : Centre National d'Etudes Spatiales) が開発を行っており,欧州各国のTLEs・TGFs研究者が参画している計画です。この小型衛星ミッションの科学目標は,JEM-GLIMSと同じく,(1) TLEsを真上から観測してスプライトの水平空間分布を明らかにすること,(2) 親雷放電からの空間偏差を明らかにしてその要因を探ること,(3) TGFsを生起した雷放電の特徴を明らかにして発生メカニズムを解明すること,などがあります。この衛星には,光学観測器 (カメラ,フォトメタ),電子計測器,ガンマ線検出器,電波受信器が搭載されており,雷放電・TLEs・TGFsを多角的に観測することができます。当研究室はこの衛星計画に2006年から参画しており,主にフォトメタの機器開発支援を行ってきました。

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    一方,欧州宇宙機関 (ESA : European Space Agency) は国際宇宙ステーション欧州実験モジュール (コロンバスモジュール) 曝露部からTLEsとTGFsの直下視観測を行うASIMミッション (Atmosphere-Space Interactions Monitor) を進めています。ASIMの科学目標も,TARANISとほぼ同様です。ASIMの観測器は2017年度中にSpace-X社のFalcon-9によってISSに向け打上げられる予定です。ASIMの観測器もTARANISと同様に,光学観測器 (カメラ,フォトメタ) とガンマ線検出器が搭載されています。当研究室は,この計画に対してJEM-GLIMSの成果をフィードバックすることでサイエンス的に貢献しています。

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    金星探査機「あかつき」ミッション

    金星の自転が243日とゆっくりであるのに比べ,高度約60 km付近の上層大気は約4日で金星を一周するという猛烈なスピードをもっています。これを地球に置き換えるならば,高度約10 km付近の成層圏上端の大気が約24分で地球を一周するような,とてつもなく速い風に相当します (赤道付近で風速 28 km/s に相当。これは,東京と横浜の距離をおよそ1秒で移動するスピードです !! )。「なぜこのような超高速な大気の動き (スーパーローテーション) が生じたのか」という最大の謎を解くために2010年に打上げられたのが,JAXA/宇宙科学研究所が開発した金星探査機「あかつき」です。この探査機には,紫外線カメラ (UVI),赤外線カメラ (IR-1, IR-2),中間赤外線カメラ (LIR), 雷・大気光カメラ (LAC) の5台のカメラが搭載されています。北海道大学のグループは,これら5台のカメラのうちUVI, LIR, LACの3台のカメラ開発に深く関わってきました。特に当研究室では,雷・大気光カメラ (LAC) の運用とデータ解析に深く関わっています。

    スーパーローテーションとともに未だに決着が付いていない問題として,「金星における雷放電発生の有無」が挙げられます。金星の高度60 km付近には厚い雲が存在しており,この雲の内部で雷放電が発生する可能性が指摘されており,さまざまな地上望遠鏡観測と探査機による直接観測がこれまでに行われてきましたが,最終的な決着は未だについていません。これに決着を付ける目的で「あかつき」に搭載されているのが,LACです。LACは雷発光の変化を高速に (時間分解32 μsで) 計測することが出来ます。このような金星における雷発光の高速測光は過去に行われたことがなく,LACによってもし雷が確かに検出されたとすれば,世界初の快挙となります。現在,勢力的にLACの観測を実施しており,金星における雷の存在に対して決着を付ける日は遠くないと考えています。

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    木星衛星探査機「JUIECE」ミッション

    太陽系最大の惑星である木星と,その衛星ガニメデ,エウロパ,カリストの直接探査を行う探査計画 JUICE (Jupiter Icy Moons Explorer) ミッションが進行中です。この探査ミッションの最大の目的は,ガニメデ,エウロパ,カリストなどの木星氷衛星を詳細に調べ,表面に広がるテクトニクスの全容や内部海の存否を明らかにして生命居住可能性 (ハビタビリティ) を明らかにすることです。さらに,木星大気の対流や磁気圏プラズマ環境なども調査し,木星と衛星との相互作用について明らかにすることも目的としています。

    このミッションは欧州宇宙機関 (ESA) が主導して開発を進めており,2022年の打上げを目指しています。木星圏への到着は,なんと2030年 (!!) を予定しています。機器の開発は主に欧州の研究チームによって進められていますが,日本国内からも多くの研究チームがこのJUICEミッションに深いレベルで参加しています。

    当研究室では,JUICE探査機に搭載される可視カメラ (JANUS : Jovis, Amorum ac Natorum Undique Scrutator) に共同研究者として参画しており,主に木星における雷発光の観測プランを立案しています。右図は,JANUSの構造を示す概念図です。このカメラの光学系には13枚の単色バンドパスフィルタを装着したフィルタホイールが内蔵されており,各ターゲットにあわせて波長を切り替えられるようになっています。木星で発生する雷発光は可視域では水素のバルマーアルファー線 (Hα = 656.3 nm)が最も強いとされていることから,その波長を透過中心波長にもつ狭帯域バンドパスフィルターがフィルタホイールに装着されています。木星で発生する雷放電を観測することによって,木星大気中の鉛直対流構造を推定することが可能で,この結果は木星の縞構造の生成要因解明に大きな役割を果たすと期待されます。

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    雷放電放射ELF, VLF波動観測

    雷放電は,数Hzから数100 MHzまでの広い周波数帯域に強い電磁波を放射することができます。雷放電から放射された電磁波のうちELF帯 (< 3 kHz),VLF帯 (3-30 kHz) の電磁波は,左図のように地表面と電離圏とで閉ざされた導波管を長距離伝搬することが可能です。特に,雷放電が放射する最も低い周波数帯域 (8-60 Hz帯) の電磁波は,シューマン共鳴 (SR : Schumann Resonance) とよばれています。SRは,その波長スケールが左図の赤線で描かれているように地球一周分に相当するほど長く,また波動の減衰率も低いために長距離伝搬することができます。平均すると世界では毎秒50発の頻度で雷放電が発生しているので,雷放電から放射されたSR波動が常に導波管の内部で励起されています。このため,互いのSR波動が常に共鳴状態にあり,8 Hz, 14 Hz, 20 Hz,・・・という周波数にピークが出現する特徴的なスペクトル構造をもっています。SRを地球上の数点で観測するだけで,全世界の雷活動を常に監視することが可能となります!

    当研究室では,SR波動を常時観測する目的で1-100 Hz帯ELF波動観測システムを1998年に独自に開発しました。これまでにこのELF波動観測システムを南極昭和基地 (2000年2月),スウェーデン・キルナ (2003年8月),日本国内の宮城県・女川 (2001年6月),大分県・久住 (2013年6月)に設置し,連続的に波形記録を行っています。右図は,南極昭和基地,キルナ,女川でほぼ同時に観測された過渡的なSR波動です。世界規模で同時観測されていることから,この波動を励起した雷放電はかなり規模の大きいものであったと予測されます。3観測点での波動到達時刻の差や,波動の到来方向から,この波動を励起した雷放電の位置推定が可能となります。また,このような規模の大きな雷放電は,高高度放電発光現象 (スプライト,エルブスなど) を発生させる可能性が極めて高いため,世界中の高高度放電発光現象の監視も可能となります。

    SR波動を長期間連続計測していると,その強度がある周期をもって変化していることが分かってきました。データ解析の結果,雷には約5日,約10日,そして約27日の周期性が存在することを突き止めました !! 27日周期とは,地球からみた太陽の自転周期に等しく,太陽活動と雷活動には何らかのリンク機構が存在している可能性を示唆します。このリンク機構を解明する研究にも取り組んでいます。

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    シビア現象の直前予測

    竜巻,ダウンバースト,集中豪雨などのシビアな気象現象 (シビア現象) の規模発達や発生予測は,現状の気象観測網をもってしても困難です。その理由の1つは,それらの現象が局所的かつ極めて短時間のうちに発達するからです。日本は気象観測網が発達した国の1つですが,それでもAMEDASの空間分解能は平均17 kmなので,数kmほどの空間スケールをもつシビア現象の予兆をとらえることは難しいといえます。一方,雷放電は発達した雷雲で高頻度に発生しますが,そのような発達した雷雲は強い上昇気流によって生まれます。つまり,雷活動は鉛直方向の対流活動の指標として有効であると考えられ,さらにはシビア現象の発生と何らかの関係性が存在するのではないかと期待されます。

    当研究室では,日本国内で発生するダウンバーストに焦点をあて,雷活動を通じてその発生を直前に予測できないか,直前予測の手法開発を行っています。右図は,群馬県高崎市で発生したダウンバーストに対し,気象データと雷データを調べた結果の1例です。ダウンバーストを発生させた雷雲セルに関して,気象レーダーデータから推定した降雨量,負極性雷雲地上間放電 (-CG : Negative Cloud-to-Ground Discharge) の発生頻度,正極性雷雲地上間放電 (+CG : Positive Cloud-to-Ground Discharge) の発生頻度を10分毎に時系列で表しています。ダウンバーストは15:50ごろに発生しました。この図から,ダウンバーストが発生する直前で,-CGの頻度がピークを迎えていることがわかります。このようなパターンを示す例がいくつもみつかっており,雷活動を監視すればダウンバーストの発生が予測できる可能性を示唆しています。今後は,ダウンバーストだけではなく,集中豪雨 (ゲリラ豪雨) や台風の規模発達予測も行えないか,さらに基礎研究を進める予定です。

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    SATREPSプロジェクト

    近年の地上・衛星観測技術と数値モデルの進歩によって,台風の中心位置と進路に関する予測精度は格段に向上しました。しかし,台風の規模 (最大風速や気圧) 予測の精度向上に関しては依然として課題が残されています。その原因の1つとして,台風中心付近の気象状況を直接的に観測することが困難であることが挙げられます。一方,近年の雷放電研究によって,大西洋で発生したハリケーンの中心から500 km以内で発生した雷放電の活動度を調べることによって,台風の最大風速や中心気圧を容易に推定できる,という衝撃的な結果が示されました [ Price, et al., 2009 ]。しかも,ハリケーンの規模が最大になる約30時間「前」に雷活動が最大となることも,統計的な優位性をもって示されました。つまり,「今日の雷活動度」を知れば「明日のハリケーンの規模がわかる」ことを示しています。この結果が西太平洋で頻発する台風にも適用できるとすると,雷観測網をこの地域に構築できたならば,極めてコストパフォーマンスの良い台風観測網を台風の被害にあえぐ東南アジア諸国は容易に手に入れたことになります。また,当研究室の研究によって,雷活動を監視すると竜巻・ダウンバースト・集中豪雨などのシビアな気象現象 (シビア現象) の予測も可能になりそうな結果が得られつつあります。

    フィリピンは,毎年のように台風の被害に苦しむ国の一つです。ひとたび勢力の強い台風がフィリピンを直撃すると,何千人もの死者が出るほどの大被害を被ります。例えば,2013年11月に発生した台風30号 (アジア名 : ハイヤン) は,中心気圧が895 hPa,中心付近の風速65メートル,最大瞬間風速90メートルと観測史上例をみない勢力に達し,その猛烈な勢いを保ったままフィリピンを横断して死者約6000人を出す甚大な被害をもたらしました。台風の規模がどの程度発達するのかをなるべく早く知ることが,フィリピンにおける台風被害を軽減するためのカギとなります。また,マニラ首都圏における豪雨やモンスーンによる豪雨など,都市部における防災も急務となっており,これら現象が発生する予兆をいち早く捉えられる観測体制を整えることも急務となっています。

    そこで我々のユニットおよび国内の多くの研究機関がチームを組み,気象・雷放電観測網をフィリピンに構築し,台風やシビア現象の規模発達を直前予測できるような体制を整えるプロジェクト「フィリピンにおける極端気象の監視・情報提供システムの開発」を,SATREPS (Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development) の枠組みで2017年4月から開始します。このプロジェクトでは,フィリピンの先端科学技術研究所 (ASTI : Advanced Science and Technology Institute) がフィリピンにおけるメインプレーヤーとなります。

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    1.6 m光学望遠鏡「PIRKA」による惑星大気観測

    我々の研究ユニットでは,北海道名寄市にある大学院理学研究院附属天文台に1.6 mのピリカ望遠鏡 (PIRKA) を所有し,主に太陽系内の惑星 (金星,火星,木星など) をターゲットとした観測・運用を行っています。1.6 mクラスの主鏡をもつ光学望遠鏡は国内においてトップクラスです。また,望遠鏡を設置している名寄市は旭川市からさらに100 kmほど北に位置し,年間を通じて晴天率も良く梅雨の影響を受けにくいことから,ユニークな観測を行うことが可能です。

    我々の研究ユニットでは,PIRKA望遠鏡を用いた金星観測や木星観測を進めています。金星観測に関しては,金星探査機「あかつき」との協調観測を行うことによって,高度60 km付近に存在する雲の循環構造を多角的に調べる研究を進めています。また,木星観測に関しては,将来の「JUICE」ミッションへに研究成果をフィードバックさせるべく,木星の極付近に存在するヘイズの動きを調べたり,雷放電の検出などを試みています。

    PIRKA望遠鏡についてもっと詳しく知りたい方は,こちら
    附属天文台における今現在のお天気 (Skyモニタカメラ画像) は,こちら

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