一階線形微分方程式の解の公式

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一階(非斉次)線形微分方程式 \[\frac{dy}{dx}+A(x)y=B(x)\tag{1}\] の解の公式を求めることを考える。このような非斉次方程式は、対応する斉次方程式の解をもとに定数変化法を用いて解くことができるが、今回は、微分に関するなじみ深い性質を用いてこの方程式を解くことにする。なお、多くの場面ではここまで一般的な方程式を解くことはなく、ここで得られた「公式」を暗記するのは得策とは言えない。本ページの目的は「公式」の紹介ではなく、導出に至るまでの手法をつかんでもらうことにある。

方針

この方程式の左辺をよく見ると、$y$の一階微分と$y$の線型和になっている。これは、積の微分法 \[\frac{d}{dx}(fg)=\frac{df}{dx}g+f\frac{dg}{dx}\tag{2}\] を意識させる。よって、$y$が陽に含まれている部分を積の微分法によって$y$と何らかの関数の積の微分に書き直すという方針を取ろう。

積の微分法の成立条件

この「何らかの関数」を$F(x)$とおく。$F(x)$は、ひとまず方程式の両辺にそれを乗じてみれば、その役割が明らかになる。 \[\frac{dy}{dx}F(x)+A(x)F(x)y=B(x)F(x).\tag{3}\] この式の左辺第一項を見てみよう。$\frac{dy}{dx}F(x)$という形は、積の微分法(式2)の右辺第一項とそっくりである。式(3)の左辺全体が積の微分法の形になるためには、$F(x)$はどのような関数であればいいだろうか? それは、左辺第二項の$A(x)F(x)y$が$\frac{dF}{dx}y$と書ければよい。この条件から、私たちは$F(x)$に関する次の制約を得る。 \[\frac{dF}{dx}=F(x)A(x).\tag{4}\] この微分方程式は、変数分離法で解くことができ、 \[F(x)=\exp\left(\int A(x)\,dx+C_1\right)\] を得る。ここで、$C_1$は積分定数であり、区間がない積分は積分定数がない原始関数を表している。ここで、今後の便利のために、指数法則$\exp(C_1+\bullet)=\exp(C_1)\exp(\bullet)$を用いて積分定数を$\exp$の外に出しておこう(これは癖にしておくといい)。$\exp(C_1)=C$と改めて定数をおけば、$F(x)$は次のように書くことができる。 \[F(x)=C\exp\left(\int A(x)\,dx\right).\]

解の導出

(3)の左辺が積の微分法の形になるような$F(x)$の具体形を明らかにしたので、(3)を次のように書き換えておこう。 \[\frac{d}{dx}\left\{y\exp\left(\int A(x)\,dx\right)\right\}=B(x)\exp\left(\int A(x)\,dx\right).\] ここで、両辺に定数$C$がかかるので、両辺を$C$で除した。両辺を積分しよう。 \[y\exp\left(\int A(x)\,dx\right)=\int B(x)\exp\left(\int A(x)\,dx\right)\,dx+D.\] ここで、$D$は積分定数であり、積分定数なしの原始関数と積分定数を分けて書いた。さらに$y$について解こう。 \[y=\exp\left(-\int A(x)\,dx\right)\left\{\int B(x)\exp\left(\int A(x)\,dx\right)\,dx+D\right\}.\] これが求めるべき解である。

問題例:時間変化する外力の下での回転運動[1]

2次元平面中を、時間変化する一様な外部電場$E_x(t), E_y(t)$と一様な外部($z$方向)磁場$B_z(t)$の下で運動する荷電粒子の運動を解析しよう。荷電粒子の加速に起因する誘導電磁場を無視すれば、粒子の速度成分$v_x(t),v_y(t)$は \begin{align} & m\frac{dv_x(t)}{dt}=qE_x(t)+qv_y(t)B_z(t),\tag{5}\\ & m\frac{dv_y(t)}{dt}=qE_y(t)-qv_x(t)B_z(t)\tag{6} \end{align} で与えられる。ここで、$m$は粒子質量、$q$は粒子の電荷である。(6)に純虚数$i$を乗じたものと(5)を足し合わせれば、これらの方程式は複素平面上の運動方程式として一つにまとめられる。 \[m\frac{d\tilde{v}(t)}{dt}=q\tilde{E}(t)-iqB_z(t)\tilde{v}(t).\tag{7}\] ここで、$\tilde{v}=v_x+iv_y$は複素速度、$\tilde{E}=E_x+iE_y$は複素電場である。この運動方程式は一階非斉次線形微分方程式である。この方程式の解は、 \[\tilde{v}(t)=\exp\left(-\frac{iq}{m}\int_0^t B_z(t')\,dt'\right)\left\{\tilde{v}_0+\frac{q}{m}\int_0^t \tilde{E}(t')\exp\left(\frac{iq}{m}\int_0^{t'} B_z(t'')\,dt''\right)\,dt'\right\}\] となる。

単純な場合についてこの解の特性を見てみよう。$\tilde{E}(t)=\tilde{E}=\mathrm{const}., B_z(t)=B_z=\mathrm{const}.$のとき、解は \[\tilde{v}(t)=\left(\tilde{v}_0+i\frac{\tilde{E}}{B_z}\right)\exp\left(-i\frac{qB_z}{m}t\right)-i\frac{\tilde{E}}{B_z}\] と書ける。この運動は、周期$m/(qB_z)$の周期的運動と速さ$i\frac{\tilde{E}}{B_z}$の等速直線運動が組み合わさった運動であることがわかる。これは、$E\times B$ドリフトとして知られており、等速直線運動成分をドリフト速度と呼ぶ。

[1] 一般的な例を思いつくまでけっこう頑張りました。


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Last Update: 2020/07/14
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